大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和36年(あ)2706号 判決 1963年12月06日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人三木今二、同千森和雄、同大塚正民の上告趣意は、判例違反をいうけれども、原判決が論旨引用の刑事判例と相反する判断をしたものとは認められない。また論旨引用の民事判例は本件と事案を異にし適切でなく、その余は単なる法令違反ないし事実誤認の主張であって、適法な上告理由にならない。

なお、原判決の確定するところによれば、被告人が本件約束手形を作成した当時、「株式会社三和カタン糸製造所」は設立準備中であって法人としては実在せず、その発起人代表たる安藤弘一郎は右会社の代表取締役に就任していなかったのであるから、被告人が、たとえ右安藤の承諾を得たとしても、右事実を知りながら行使の目的をもって、振出人を「株式会社三和カタン糸製造所代表取締役安藤弘一郎」と表示し、その印を押捺して、いかにも実在する右会社が振出したものと誤信させるような約束手形を作成するときは、架空の会社の代表資格を冒用したものとして、有価証券偽造罪が成立するものというべきである。この点に関する原判断は正当である。

その他記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例